仁成航路 号外版 平成19年5月
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好評連載中の『教えて! Dr.ビーン!!』と、食品成分表の続編を第22号で掲載出来なかった為、今回 号外版を発刊することになりました。皆様大変お待たせ致しました♪
教えて!Drビーン!!
【第8回】透析医から見た今日の腎移植
副院長 吾妻 眞幸
image今回は、6月に予定されている患者勉強会の講演に先立ち、予備知識をいれる意味で腎移植について勉強しておきましょう。
2005年末で全世界の腎不全症患者総数は約190万人(毎年6パーセントの増加)で、そのうち約130万人が液透析を受け、約16万人が腹膜透析、約44万人が腎移植を受けています。有病率(人口100人に対する腎不全の治療を受けている患者数)は世界の平均が290人に対して日本では約2100人、世界最低が中国で40人になっています。つまり、医療レベルや国の経済事情で治療を受ける事なく死亡するケースがあるという事です。
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日本では約26万の透析患者のうち、約1万5千人が腎移植登録をしていますが、移植希望は全体の1割以下になっています。昔は、ほとんどの患者さんが移植を希望されていたのですが、透析医療が比較的楽にできる様になったことと透析を受ける患者さんの年齢が高齢になったために移植希望が低下したのではないかと思います。また、日本では平成9年10月に臓器移植法が施行され、脳死移植が可能になり2005年3月末で53例が移植を受けています。その結果、腎移植には死体腎移植と生体腎移植、脳死移植の3つの方法が可能になったということです。世界の統計では、2005年度に腎移植を受けた患者数は日本が994人、アメリカは30パーセントの腎不全患者が移植を受けるため16,471人になっています。中国やフィリピンといった国の移植事情は統計がないため不明です(公表していない)。人口100万人に対する腎移植後の生着腎を有する患者数の上位ランクではスペインが500人以上、アメリカは440人、カナダは365人となっていますが、生存率では1〜2年と4年以上でアメリカはカナダより低くなっています。これは、医療費の負担が公的サービスのビバレッジモデルであるカナダとプライベート保険であるアメリカの差かもしれません。(ちなみに、日本はビスマルクモデルと言われる混合型になっています)テレビなんかで、3大成人病(癌、心筋梗塞、脳卒中)保障保険とか5大疾患(高血圧、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎)保障など宣伝しているでしょう?アメリカではこの様な保険から医療費が支払われる仕組みになっています。アメリカの透析での5年生存率は25パーセント程度で、保険に加入していない人や、お金を十分払うことの出来ない人は劣悪な医療を受けて長生きできないという事から生存率に差が出ているのかもしれません。フィリピンや中国で腎移植を受ける患者もいますが、生着率や生存率などの統計報告のない様な医療レベルの国で移植を受けると移植後に命を落とす危険が少なからずあると言う事です。

image腎移植が始まった頃は、移植腎が永遠に生着し続けるわけではなく、よくもって10年程度だから、死体腎の場合は良しとしても生体腎の場合は提供者も2つあった腎臓が1つになり、加齢とともに腎負荷が加わって腎不全になり、結果的に透析が必要となり、結局10年後には2人の透析患者をつくることになるから、生体腎移植には反対の意見や、夫婦間で認めると偽装結婚をして移植するとか、遺産問題(腎臓を提供したから遺産を多くもらうなど)が絡んでくるなどの意見がありました。中には人間の寿命は神が決めたものを医学が進歩したからといって安易にかえてはいけないと、移植に反対する医者の意見もありました。(では、なぜ医者になったのでしょうね?)

今では、民法に定められている親族間(6親等以内の血族、3親等以内の姻族)の移植がされています。ここで言う血族は自分(患者)の関係者で姻族は配偶者の家族です。親等の数え方は自分と配偶者をゼロとして考えてください。1親等は父母(義父母も含む)、子(実子、養子)、子の配偶者、2親等は自身の兄弟(義兄弟も含む)、それの配偶者、配偶者の兄弟、孫、孫の配偶者などになるはずです。6親等以内となると、家計図などなかったらどうやって血族か否かを調べるんでしょうね。image

3月31日の読売新聞に掲載された、今、話題の宇和島病院の万波医師の行なった腎移植(病気腎、癌)についての日本移植学会の記事を紹介します。
図を見て分かる様に、5年生着率は通常生体腎移植が約83%、死体腎が約69%、病気腎35%(癌21%)になり10年後はそれぞれ69%、54%、25%(21%)と明らかに低 く、患者の生存率も低かったと記載しています。数字だけ見ていると移植しても長く腎臓は機能するんだなって思った方もおられるかもしれませんが、腎臓は機能が30%以下にならないと血液検査でクレアチニンや尿素窒素は上昇しません。(10%以下になったら透析をします)皆さんが経験した透析に入る前の厳しい食事制限をやっていた状態(腎機能低下状態)でも生着数にカウントされます。テレビで紹介されている患者さんの様に元気な方もおられますが、入退院を繰り返している患者さんもいるということです。
次に生存率も見てください。移植直後の一年以内に一旦低下しているでしょう。手術後の免疫抑制剤の影響等で感染症などが原因で亡くなっていると言う事です。10年生存率も生体腎、死体腎はそれぞれ84%、77%になっています。移植を受ける患者さんは比較的若い事を考えると寿命をまっとうしていないかな?って気がします。また、腎移植後に癌の合併が6%程度に認められ、生着年数の増加に伴ってリスクが高くなると考えられています。 image
移植腎の生着率/患者の生存率 グラフ
テレビではバラ色の治療ともてはやしていますが、移植後も高額な内服薬を服用しなければならず、色々なリスクが存在していることも含めて、患者に説明しないと本来の医療ではないのではと考えます。たとえは悪いですが、野球選手がみんな松坂じゃないという事です。勉強会では、移植にかかる費用、定期的にかかる医療費などの自己負担金や年金はどうなるか、身体障害手帳はどうなるかなど色々なお話が聞けると思いますので、みんなそろって患者勉強会に参加しましょう。image

仁成クリニック 患者勉強会
特別講演:
いはらクリニック 井原 英有 先生
(元兵庫医科大学 泌尿器科 移植腎担当)
演  題:
腎移植の現状と希望時の具体的な手続き方法
日  時:
平成19年6月3日(日)
10:00〜12:30(予定)
尚、受付・開場は9:30より致します
場  所:
宝塚ホテル シルバーの間
皆様のご参加お待ちしております 
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