今回は、前回の続きで透析アミロイド症についてお話しします。その前に前回のお話しの復習をしましょう。透析アミロイド症とは主にリンパ球系細胞で産生されたβ2―MG(ベータ・ツー・マイクログロブリン)というタンパク質が腎臓で分解代謝されないため身体に蓄積し、原因不明の変化によってアミロイド蛋白となり、骨や靱帯や背骨の間にある椎間板などに主に蓄積する全身性の病気であることを思い出してください。つまり、アミロイド蛋白が大量に蓄積すると症状が出ますが、内臓の症状よりは骨・関節症状の方が出やす手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)、バネ指、破壊性脊椎関節症(はかいせいせきついかんせつしょう)、多発性関節症(たはつせいかんせつしょう)などが知られています。症状がでるのは最低でも10年、20年以上の透析を行っている人でも50%程度だと考えられています。それでは今回のテーマのそれぞれの症状と治療方法についてお話しします。
まず手根管症候群からはじめます。図1を見てください。屈筋支帯という場所があるでしょう?そこにアミロイド蛋白が大量に蓄積して、骨との間にある正中神経(せいちゅうしんけい)を圧迫することによって症状が出てきます。つまり、神経が押さえられた症状なので、図2にある様な正中神経の支配領域にチクチクした痛みや手袋をして触っているような異常知覚などがでてきます。痛みの特徴は夜間に増強したり、透析後に軽快したりします。神経の圧迫が長く続くと筋肉の萎縮が始まり、猿手(さるて)と言って親指の根本の筋肉が痩せてきて、猿の手のひらの様に凹凸のない手になってきたり、親指と人差し指でオッケイの形が出来なくなります。(世の中銭やって言う時の指の形の方が分かりやすいかな?)ここで気をつける事は薬指の親指側の半分が正中神経で、小指側は図2をみても解る様に圧迫されない尺骨神経支配のため手根管症候群の症状は親指、人指し指、中指、薬指の半分に症状がでるという事です。診察所見としては手首を曲げたり、手首の上を叩くことで痛みが増強するかどうか、つまり正中神経の圧迫を強めてやる事で判断します。似た様な症状を示す頸椎の病気や単純な関節炎、シャントの影響などと区別する事が重要です。治療としては、圧迫している場所にステロイド薬を注射したり痛み止めの内服になりますが、一時的な治療であるため最終的には手術が必要になります。手術は手相でいう生命線に沿って手首まで切って、圧迫している屈筋支帯を切り開くだけなので30分程度で済みます。(生命線が延びて200歳位まで寿命がのびるかも?)
バネ指も同様に指を曲げる筋肉にアミロイド蛋白が沈着することで腱の動きが障害され、指を伸ばしたり曲げたりする時にコクッという様な感じで指が動きます。つまりバネ仕掛けで動く様な感じになるからバネ指といいます。治療は手根管症候群と同様に手術となりますが、両方とも長い間、手術が怖いといって放っておくとせっかく手術をしてもあまり効果がでない事もあるので注意してください。
次に破壊性脊椎関節症についてお話しします。背骨を支えている靱帯(じんたい)にアミロイド蛋白が沈着し始め、徐々に骨の破壊が起こってきます。初期の頃、症状は全くありませんが、神経を圧迫する様になるとしびれや痛みが出始めます。首の骨や腰の骨など重みがかかり、良く動かす背骨に変化がでやすいと考えられています。診断はレントゲン検査で行い、治療は手術では危険が伴うためほとんどの場合、装具を利用して背骨に力が加わらない様にする事が主になります。ただ、神経が圧迫され手足の麻痺をきたした場合には手術を行います。
多発性関節症はよく動かす関節、例えば肩関節や股関節、膝などの関節包にアミロイド蛋白が沈着することで炎症をおこしてきます。多くの場合関節液の貯留があり、動かした時に痛いとかうまく関節が曲がらなくなってきます。治療は暖めるとか関節液を抜いたり、ステロイド剤の内服や関節内への注射、痛み止めの内服になります。手術治療は余程でない限り行いません。透析アミロイド症は予防が一番なのですが、原因がはっきりと分かっていないので完璧な予防はできませんが、透析液の水質管理やハイパーフォーマンス膜の使用などが有効であると考えられています。(すでに当院ではやってます)
読んでいるうちに、そういえば膝が・・肩が・・首が・・手首が・・痛いからアミロイド症じゃないかと心配になってきていませんか? 心配になってきたら、いつでも相談してください。
(今回は省略しましたが、ベーカーのう腫は膝関節の後ろにできるアミロイドの塊の事です)
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図1 手関節部横断面 |
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図2 右手掌の神経支配領域 |
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