今回の仁成航路は、世界的大流行となっている新型コロナウイルス感染症について、なるべくわかりやすく説明したいと思います。なるべくエビデンス(医学的根拠)に基づいて記述していますが、状況が変化しており、現在の見解は変化する可能性がありますので、注意してお読み下さい。
【症状】
潜伏期は1514日、大部分は556日です。発熱は70%、咳は44%、他に感冒症状(咽頭痛、倦怠感、鼻汁)や、味覚・嗅覚異常、下痢・嘔吐、重症化すると肺炎から呼吸不全に至ります。初期は風邪と区別がつきにくいのですが、風邪による発熱は平均4日で改善しますので、4日で発熱が改善しない場合は注意が必要です。ほとんどの感染症は症状が出現してから感染性を発揮しますが、このウイルスは発症2日前から感染性があることが最近わかりました。 透析患者に関しては報告例が少ないのですが、一般的に感染リスク・重症化リスクとも高いと思われます。そのため透析患者の場合、発熱がみられた際は、すぐに感染対策を行う必要があります。 無症候性感染に関しては、中国での報告では当初12%と言われていましたが、無症候者を罹患者数から除外していたことが後にわかり、実数は逢かに多いと予測されます。クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)では、PCR陽性者の47%が無症候性とされています(国立感染症研究所報告)。つまり症状がない人でも罹患している可能性が十分ある、と言えます。無症候性の場合、本人にも感染していることが分からないので、自分が流行地にいる場合は罹患しているという前提で皆が行動する必要があります。不要不急の外出を控え、極力「人と接さない」ことが求められます。
【どのように感染が広がるのか?】
主に飛沫感染と接触感染とされており、エアロゾル感染も可能性を指摘されています。感染様式については諏訪中央病院のホームページを御参照ください。新型コロナウイルス感染症は基本再生産数が2.0~2.5とされています。これは1人の患者が2~2.5人にうつしているというものです。インフルエンザとほぼ同数ですが、新型コロナウイルス感染者の特徴として、感染者全員が2人にうつすわけではないというのがポイントです。感染者の8割は誰にも感染させておらず、2割が多くの人へ感染させています。「コロナウイルス感染症=強い感染力」というイメージがありますが、強い感染力を持っている感染者は2割程度の割合です。万一周囲にコロナウイルス感染症の方が出た場合にも過度に不安になり、差別をしないように心を広く持つようにしましょう。
【感染症の影響】
この感染症の最も恐ろしい社会的影響が「医療崩壊」です。現在、日本の最流行地である東京・大阪では実際に医療崩壊が起こりつつあります。
新型コロナウイルス感染者が増加すると、1)医療資源の消耗 2)医療従事者の肉体的・精神的疲弊 3)入院病床や集中治療の枯渇化が起こります。最も感染者の多い東京では、疑似患者の受け入れ困難が続いており、救急車が搬送病院を見つけられない事例が複数起きています。疑似患者とは、新型コロナウイルス以外の肺炎患者です。病院も新型コロナウイルス感染対策が十分でなければ、受け入れができません。東京の疑似患者の救急対応は隣県へ行かざるを得ない状態となっています。また、新型コロナウイルス感染症の重症患者が一定数を超えるとICUが満床となり手術が出来なくなります。例えば去年ある病気で助かっていた患者が、今は手術が行えず助からない、という事が起こりえます。
国家として医療崩壊すると、死亡率は急増します。同時期に新型コロナウイルス感染症が流行した、ドイツとイタリアを比較(4/21時)すると、イタリアの死亡率は12.5%に対しドイツは2.9%です。この差の大きな理由としてICUの体制整備の差とされています。ドイツは30床/10万人に対し、イタリアは12床/10万人です。それに対し、日本はわずか5床/10万人であり(日本集中治療学会報告)、ICUの病床はすぐにコロナウイルス感染患者で埋まってしまいます。中国の武漢市では医療崩壊が起きましたが、都市封鎖したことで国家的な医療崩壊には至らず、死亡率は5.6%に止まりました。しかし、国全体で医療崩壊が起これば、死亡率は跳ね上がります。現在(4/21時点)日本の死亡率は1.7%に抑えられていますが、イタリアの死亡率は現実的となり、他の疾患での死亡率も上がります。怖い話ですが、現実的に起こりつつあり、一人一人が感染リスクを下げる行動をとることが必要です。
【治療・予防法は?】
抗ウイルス薬は罹患した患者の治療を目的として、ワクチンは罹患しないように、また罹患した場合も症状を軽減する目的があります。現在、日本では複数の抗ウイルス薬が試験されています。これらの薬は元々別の病気に対して使用する目的で開発されましたが、臨床試験をすでに済ませているため安全性がわかっています。そのため新型コロナウイルスヘの有効性さえわかればすぐに使用することが可能です。本来新型コロナウイルス用に開発されたものではないので、ベストな薬ではないかもしれませんが、急場をしのぎワクチン開発の時間を確保することが期待されます。ワクチンには大きく分けて「生ワクチン」と「不活化ワクチン」があります。
[生ワクチン]発症しないレベルまで弱毒化したウイルスを投与するもので、はしかなどで用いられています。発症してしまうリスクはゼロではありませんが、投与すると高い効果を得ることができます。
[不活化ワクチン]毒性を抜いたウイルスの一部を投与します。代表的なものがインフルエンザワクチンです。副作用はほとんどないですが、十分な免疫を獲得できない場合や持続性に問題があります。
二つのどちらが良いか、と聞かれたらどうでしょう?生ワクチンは安全性が十分にわかっていなければ恐くて使えません。長期の試験で安全性を確認する必要があるため、即戦力になるのは不活化ワクチンとなります。しかし、不活化ワクチンはウイルスの構造解析、ワクチンの動物実験、臨床試験といった手順を踏む必要があり、やはり時間がかかります。ワクチンが出来ても大量生産する方法も問題です。そのため、本来ワクチンを皆が使えるようになるまで数年かかります。大阪府では医官民一体となった治験(治療を兼ねた臨床試験)前倒しで今年7月から行う予定で、経過が注目されます。
【最後に】
抗ウイルス薬、できればワクチンが使用できるようになるまでは、とにかく感染しないようにすることが重要です。そのため感染防御を正しく理解し実践する必要があります。最近になり、残念ながら感染防御に関する意識の差から人間関係の悪化が見られています。憎むべきは人ではなくウイルスです。今は皆つらい時期ですが、必ずこのような時期は終わります。それまでは自分のすべき感染防御をしっかり行うように心がけましょう
仁成会理事長 依藤 壮史