院長あいさつ平成15年度委員会活動報告患者様投稿
教えて!Dr.ビーン!!お知らせ・編集後記



教えて!Dr.ビーン!!

今号より、皆さんの透析生活に役立つ情報としてT透析の豆知識Uを副院長の吾妻先生に依頼いたしました。是非、参考になさってください。
教えて! Dr.ビーン!!
副院長 吾妻 眞幸

第一回目は目標体重と心胸比です。血液透析で最も悩むのがどれだけ除水をするか、目標体重をどう設定するかにあります。

この目標体重(ドライウエイトとも言います)の概念は、「それ以上、体内の水分を除去すると急激な血圧低下を来す限界の体重」と認識されています。
では、なぜ透析をする時に目標体重などきめなければならないの?って疑問が出てくると思います。

それは、人間の体の水分量は男性では体重の60%、女性では脂肪が多いため50%で、腎臓が正常に働いていれば水分を一定にしてくれます。腎不全になるとこの働きがなくなるため、水分を摂りすぎると体内に余分な水分が貯留することになります。では、余分な水分が体内にたまるとどんな症状になるか、まず血液量が増えるため血圧が上昇し(高血圧症)、その次に血管外に水分が貯留し始めます。つまり顔や瞼や足のむうみとして現われます。ひどくなると胸水や腹水が貯留しはじめ、心臓の働きで処理できなくなった過剰な血液が肺に貯まり呼吸困難などの症状が出ます。水分過剰状態が永く続くと、うっ血性心不全になってしまします。

では、適正な目標体重はどの様に決めるかってことになりますが、高血圧症やむくみなどの水分過剰症状と透析後の筋ケイレン、あくびなどの除水過剰症状と検査方法では心房性ナトリウム利尿ペプタイド(ANP)などの血液検査もありますが、リアルタイムに状態が把握でき、且つ正確に水分状態を把握できる胸部レントゲン検査が一般的に行われています。
通常最大間隔の透析前に撮影し肺血管陰影、胸水貯留の有無、心胸比を調べます。心胸比は心臓の横径を最大吸気時の胸郭横径でわった値です。正常は50%未満です。(心疾患のある方は55%位まで) レントゲンを撮る時に「大きな息をして〜」と言っているのは、最大胸郭にするためで、過剰な水分が貯まっていると心臓横径が大きくなって心胸比が大きくなると言う事です。

大きな息をする時に胸の前のレントゲンフィルムから体が離れると心臓陰影が拡大されて写るのでくれぐれも注意してください。「やっぱり私は、透析して除水すると血圧が下がるし、足もつってくるから除水しすぎなんだわ、目標体重が合ってないからだわ」って思う方もいるかと思いますが、血管内の血液量は体重の1/13です。

つまり60Kgの人では4.6Lの血液が流れているのですが、そのうち血球成分を除く液体成分はヘマトクリット値を30%とすると3.2Lしかありません。つまり3Lも除水したら血管内の水分はなくなってしまします。ではなぜ、なくならないかというと前にも述べたように体の水分は60%あるので血管外から血管内に水分移動がおこるからです。

ただし、この移動には個人差があり移動が遅いと血管内の水分が減った状態となるので血圧低下やケイレンといった症状が出てしまう事になります。また、糖尿病の方などは自律神経失調や動脈硬化の度合いが強いので血圧低下などの症状が出やすいと思います。
これを防ぐには血管内に水分が戻ってくる時間にあわせてゆっくりと除水するという事と単位時間あたりの除水量を減らす方法がとられます。つまり透析時間を延長したり、体重増加を抑える(水分制限をする)ということです。体重増加を抑えればいいかというとそうでもありません。
除水量と食事摂取量は関連するからです。

体重増加を抑えるために食事制限などを行うと、栄養不良状態になります。日本透析医学会の統計では、2%以下の除水の患者(食事量の少ない方)と8%以上の除水をする患者(食事量の多い方)の生命予後は不良であると報告されています。
裏返せば、目標体重の2〜6%を目安に体重増加を考えればいいということです。

水分を増やさず、しっかりと栄養をとるということですが、言うは易し、行うは難しと言うことはわれわれもよく分かっています。目標体重を上げ下げするのは痩せた、太ったと過剰水分を除くということは意味合いが違います。長期の過剰な水分貯留は心不全を来します。
目標体重の持つ意味合いと増減にご理解いただけたでしょうか?