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教えて!Drビーン!!
【第三回】シ ャ ン ト
副院長 吾妻 眞幸
今回は、シャントのお話しをします。血液透析では血液のアクセスは生命を支えていくために欠かせないライフラインになります。では、基本的なお話から始めましょう。

シャントは『血液の取り口』を意味するブラッドアクセスと総称され、内シャント、外シャント、人工血管、カテーテル、動脈穿刺に分類されています。血液透析では十分な血流を得るため図1に示したような動脈と静脈を短絡させて静脈血管内に動脈血を流す方法をとります。つまり、血液の流れを近道させて血液の流れを多くする訳です。

通常外来透析の場合は内シャント、人工血管、動脈穿刺が主になるので、この3つのアクセスについてお話しをします。図1を見てください。
動脈は上腕動脈が肘関節の下で橈骨動脈(とうこつどうみゃく)と尺骨動脈(しゃっこつどうみゃく)に分かれ尺骨動脈から総骨間動脈(そうこっかんどうみゃく)がわかれて手のひらの方へ血液を送ります。主に3本の動脈が流れるわけですが、手のひらで2つのループを作るので橈骨あるいは尺骨動脈のいずれかがつまっても、手に流れる血流が保たれる様になっています。上腕動脈がつまってしまうとそれより末梢には血液が流れなくなり壊死になってしまうため、シャントには使用しません。通常は橈骨動脈を選択して皮静脈とつなぎ合わせます。
つなぎ方は側面と側面を合わせた側々吻合、片方を断端にした端側吻合、両方とも断端にした端々吻合がありますが、血流や合併症の関係で端側吻合が選択されます。シャントの流れが余りにも多すぎるともう一方の動脈では血流を補充出来なくなり、手のひらの虚血状態がおきます。これをスチール症候群といいます。スチールすなわち盗むという事です。
また、静脈がシャント吻合部より身体に近い方で細くなっているとか詰まってしまった場合などに、豊富に流れ込んでくる血液がダムの様にせき止められることで腕全体がむくんではれてきます。これを静脈高血圧症といいます。
また、血液が手のひらの方向に流れだすと手のひらがむくんできます。これをソア-サム症候群といいます。いずれの場合もひどくなると手が壊死になってしまうので手術が必要になってきます。表に3つのアクセスの特徴と合併症を示しています。人工血管の場合は穿刺が易しい反面、感染をきたしやすい事と開存率が悪い事が問題となっています。内シャントの5年開存率が65〜70%に対して29〜32%とかなり低くなっています。また、シャント血流は大体1分間に500mlほど流れているのですが、1000ml以上となると心拍出量を増加させ心臓に負荷がかかってしまうと考えられており、人工血管は内シャントよりこの危険が高いといわれています。動脈穿刺の場合はこの心配が無い事から、心臓の働きが低下した場合にはシャントは作らないほうがいいと考えられています。
また、ボコボコとしたシャント血管がありますが、このコブはシャント部と穿刺部にできます。シャント部のコブは破裂すると大量出血の危険があるため切除術が必要となってきますが、穿刺部静脈のコブは細菌感染や止血困難などの原因になります。静脈弁(血の逆流を防ぐ働き)部が狭窄してひょうたんの様になっている場合もありますが、同じ場所を穿刺する事によってもおこります。
穿刺する人は、安易に穿刺でき失敗が少ないし痛みも軽いという理由で同じ場所を穿刺しがちになります。患者さんも痛くなくて失敗しない所と希望するので両者の利害が一致し、結局コブになってしまいます。これを防ぐには痛みを辛抱して穿刺箇所を変えていくことしかありません。

次に感染の問題ですが、透析時に皮膚の細菌が針に付着して起こす事はまずありません。透析日に風呂に入って不潔にしたり、長時間キズテープを貼ったままとかお風呂に入ってよく洗わない事などが原因になる様です。同一部位を穿刺し続けて、血管と皮膚をトンネル状にするボタンホール穿刺という方法もありますが、在宅透析をする場合に医療者でなくても針を入れやすくする方法として考えられました。しかし、痛くない反面、出血や感染症など色んな障害もあるようです。
また、重いものを持ったらシャントがつまるとかボールを握って運動したらシャントが良く流れるとかいう人もいますが、シャントとは全く関係ありません。ただし、買い物に行った時、奥さんや旦那さんに荷物を持たせる口実にはなります。シャント閉塞の最も大きな原因は、穿刺の失敗による血腫形成と止血バンドや手枕、重い鞄を腕にかけるといったシャント血流の遮断にあると思います。むやみやたらにきつく止血バンドをしめたり、昼寝のときにシャント肢を圧迫しないようにしてください。われわれは穿刺ミスのないよう努力します。

以上簡単に解説しましたが理解できましたか?
図1 上肢の動脈と静脈の走行
図1 上肢の動脈と静脈の走行
恒久的ブラッドアクセス
内シャント法
人工血管移植
動脈表在化方法
充分な血液量
長期間使用可能
生活上の不便さがない
反復使用が可能
機能の持続性
充分な血液量
生活上の不便さがない
反復使用が可能
充分な血液量
止血が容易
穿刺部位が広範囲
穿刺が容易
生理的(心機能)
穿刺時の苦痛
シャント合併症
穿刺困難
穿刺時の苦痛
長時間使用が困難
狭窄、閉塞し易い
止血困難
生活上の不便さがない
穿刺時の苦痛
血行障害
返血困難
薬剤注入困難(動―動)
側々吻合
端側吻合(動脈←→脈)
端々吻合
タバコ吻合
上腕動脈
大腿動脈
橈骨動脈
単針透析法
E-PTFE
ポリウレタン
シャント合併症
合 併 症
対  策
感染症
  人工血管感染が問題
穿刺、回路接続、止血時の清潔操作の徹底
狭窄
  内膜肥厚、瘢痕が原因となる
ステント挿入、バイバス術、経皮的血管拡張術
閉塞(血栓形成)
フォガティ-カテーテルによる血栓除去(観血的)
アクセス再建術(作成部位に注意) 
静脈高血圧症
  静脈血還流障害(鬱血症状)
シャント再建術或いはシャント閉塞術
狭窄、血栓などの原因除去
スチール症候群
  シャント部末梢の虚血性病変
シャント吻合部の縫縮術
シャント再建術
シャント静脈怒張、蛇行
  シャント部中枢側の狭窄
狭窄の解除
シャント再建術
動脈瘤(仮性動脈瘤)
  穿刺部瘤、吻合部瘤
破裂の危険があればシャント閉塞術
シャント再建術