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2024年も半分が過ぎました。2024年の元旦には石川県で能登半島地震があり、4月には台湾で花蓮地震が発生するなど、大規模な地震が続き、透析を受けておられる患者様にとっては御不安になられる出来事だったと思います。現在兵庫県では透析に関する災害対策として、兵庫県透析医会と役所が主導し、災害が発生した場合、被害状況をスムーズに伝達し、安全に透析を受けられるネットワークの作成が開始されつつあります。未だ十分な体制とはいえないですが、少しずつ前進している状況です。

さて、今回は透析患者様にとって最も重要な合併症の一つである、心不全に関してお話したいと思います。心不全とは、『心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と定義されています。心臓は全身に血液を送り出すポンプとして1分間に約80回、1日約12万回、1年約4,200万回、これを一生涯寝ている間も休むことなく続けています。日本国内において、心不全は2022年度の統計調査で透析患者の死亡原因の第二位(21.0%)であり、新型コロナウイルス感染症により感染症が逆転するまでは第1位でした。(図1参照)

(図1)慢性透析患者 死亡原因割合の推移 1983-2022年

透析患者様の36%は心不全を合併しているとの報告があり、また心不全を合併した透析患者様は予後が悪いことが知られています。

■ 原因

心臓の筋肉を養っている血管(冠動脈)が詰まってしまう心筋梗塞や狭心症、動脈硬化や塩分の摂り過ぎなどが原因の高血圧、心臓の部屋を分けている逆流防止弁が障害される弁膜症、心臓の筋肉に異常が起こる心筋症、拍動のリズムが異常になる不整脈など様々な疾患が原因となって生じます。

透析患者様は透析間に体液量が過剰な状態になりやすい状態です。通常は体液量が過剰になると、心拍出量を増加することで補いますが、高血圧や不整脈、狭心症などの基礎疾患がある方は心臓が十分な心拍出量を出すことが出来ず血行動態が破綻し心不全を起こしやすくなっています。

■ 症状

心不全は右記の如く、うっ血(血流の停滞)+全身の循環不全(低心拍出)と考えることが出来ます。

うっ血により、肺うっ血による呼吸苦、全身のうっ血による下腿浮腫、消化管のうっ血による食思不振や腹部膨満、肝うっ血による肝障害、四肢の浮腫が生じます。また全身の循環不全による臓器障害により、全身倦怠感、チアノーゼ、末梢の冷感、意識低下を起こします。

■ 検査

<胸部レントゲン>
心不全によって体に水分が貯まると、心臓の拡大や肺への水分貯留(肺水腫)、肺の周囲のスペースへの水分貯留(胸水)などが生じます。当院では月1回検査を行い、心不全にならないよう目標体重の調整を行っています。

心不全のレントゲン

正常のレントゲン

心不全のレントゲンは正常と比べ心臓(左右の肺の間にある白く見える袋状のシルエット)が拡大し、左右の肺の下部が白くなっています。これは肺の下に水がたまっている(胸水)所見です。

<心電図>
心不全の原因となる不整脈の有無や、心筋梗塞・狭心症などの検出に役立ちます。また、心臓の筋肉の障害や肥大が検出されることもあります。
<心臓超音波>
心臓の形や動き、血液の流れを評価します。これにより心臓の動きの低下や、壁の厚さ、心臓の各部屋の大きさなどが分かります。また、血液の流れを見ることで、心臓の弁が開きにくくなっていたり、逆流していたりする弁膜症も発見することができます。
<心臓カテーテル>
手首や足の付け根、首などの血管からカテーテルという細い管を入れ、心臓まで到達させて様々な評価を行います。入院が必要となり、身体に負担がかかる検査ですが、得られる情報は最も多い検査です。

■ 増悪因子

高血圧や高コレステロール血症は心血管疾患の危険因子として有名ですが、他に透析患者に特有の悪化因子について挙げていきます。

<体液貯留>
透析患者様は腎不全のため摂取した水分を体外に出せず、そのまま血管内や全身の組織に貯まります。透析患者様は透析間の体重増加が目標体重の3~5%以内が理想とされ、仮に体重50kgの方ですと透析間の増加体重は1.5~2.5kgとなり、これが余剰な水分となります。
一方、人間の体内を循環している血液量は体重の1/13とされているため、50kgの方の血液量は3.8kgほどになります。そう考えると1.5~2.5kgの水分が負荷される事で心臓にかかる負担がいかに大きいかがイメージできると思います。そのため、透析が終わる時には少しでも体液量が貯まっていない状態まで除水を進めることで、心不全の発症を減らすことが出来ます。
<貧血>
貧血状態はヘモグロビンが低下し、酸素を運搬する能力が低下するため、末梢血管が拡張することで酸素の取り込みを促進しますが、血管が拡張することで元に戻そうとするホルモンの分泌亢進が起こり、このホルモンが体液を体内に留めることで体液過剰状態が起こります。
<慢性炎症>
透析患者様は尿毒素の影響で慢性炎症状態となりやすく、慢性炎症は動脈硬化を進展させることが知られています。
<高リン血症>
カルシウム・リンの異常は動脈石灰化を引き起こし、出血や梗塞を引き起こします。特に高リン血症は血管の弾性を低下させることが知られており、血圧に大きな影響を及ぼします。

■ 治療

心不全そのものに対する薬物治療を行います。また心不全の原因と解決方法がはっきりしている場合、例えば心筋梗塞や狭心症に対しては、冠動脈に対する治療が行われます。弁膜症に対しては、弁置換術や弁形成術などの開胸手術やカテーテル治療が効果的です。

透析患者様は体液貯留傾向となりやすく、拍出量の増加は、一日約12万回の心臓の拍動にとって大きな負担となります。長期的にみれば可能な範囲で多くの除水が好ましいですが、過度な除水は血圧低下や心臓の冠動脈への血流低下をもたらすため、適切な目標体重の設定が重要です。

■ 最後に

心不全は良くなったり悪くなったりを繰り返す病気ですので、上手に付き合っていく必要があります。そのためには大きく分けて、① 内服を継続する事、② 食生活に気を付ける事、③ 自己管理を行う事の3つが重要です。

  1. ① 内服に関して、調子が良くなるとつい内服を忘れがちになってしまいます。心不全悪化の原因として、内服の中断は最も多い原因の一つです。研究では、心機能を改善させる薬をやめた患者さんではせっかく良くなった心臓の動きが短期間のうちに悪くなることが証明されています。そのため、心不全の薬は必ず継続して内服するようにしましょう。
  2. ② 食生活に関して、塩分の制限が重要になります。塩分を取り過ぎると、体の中に水分を溜め込むようになり、心不全になりやすくなります。透析患者様は水分制限が必要ですが、それと別に1日6g未満を目途に、塩分を取り過ぎないことを心掛けて下さい。
  3. ③ 自己管理に関して、心不全は長く付き合っていく病気です。そのため内服の継続、塩分制限に加えて、日々の状態をご自身で管理頂く必要があります。血圧を記録し、高すぎたり低すぎたりしないか、チェックするようにしましょう。